岐阜脳卒中リハビリテーション研究会
―その拠点は岐阜。  脳卒中リハビリテーションを、“机上の空論”や“小手先のHowto”だけでなく、「機能解剖から臨床応用へ」と繋ぐべく、活動していきます。
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脳損傷後の運動学習
潮見泰蔵 脳損傷後の機能回復と運動学習 2006,理学療法科学

の論文等を読み、感じたことをまとめていきます。

一個人の意見ですので、実際の内容とは異なる可能性がございます。
詳細は原著をご覧ください。





Ⅰ.慢性期の麻痺側上肢機能について
 一般的にプラトーとも呼ばれ、積極的な治療対象にならない可能性が高い。
 この場合、生活の場における現実的な課題を遂行させるようなプログラムを通じてトレーニングを行なったほうが、
実用的な粗大運動能力の獲得が期待できるのでは、と考えたほうが実際のところ、合理的であるようにも思う。
 しかしこれは、脳卒中発症直後の非麻痺側上肢による“積極的代償性使用”が
麻痺側上肢の、その使用機会が奪われ「学習された不使用(learned non use)」状態となり、回復を阻害している因子とも考えられる。
 実際、理学療法では「痙性の軽減」や「可動域の維持」といった治療が実施されるのに留まり、
積極的な治療の対象とはなり得なかったように思われると述べている。
 
 治療の根幹は「学習された不使用(learned non use)」の改善、すなわち「使用依存的再構築(use-dependent reorganization)」である。
 特に麻痺側上肢の運動療法の介入に至っては、その対象者において“意味のある”動作・行為をトレーニングとして用い、応用ADL動作に至るまで、その意味のある結びつきが大変重要であるようだ。
 この場合、重要になるのが目標設定と課題の難易度である。セラピストは注意深く対象者を観察・評価し、対象者の最適課題設定(7/10程度)を行なう必要がある。
難易度があまりにも高すぎる課題では、成功感や達成感を味わうことなく、「学習された無気力感(learned helplessness)」を惹起しかねない。

Ⅱ.脳卒中運動障害の評価における階層構造
 目標指向的アプローチでは最上位の複合・応用動作(Disability)獲得の為に関連する基本的要素動作(Functional limitation)を鍛え、さらに必要であれば、関連する要素機能(Impairment)の改善を図るとされている。

Ⅲ.運動再学習プログラム(MRP:Motor Relearning Program)
 1982年にCarrとShepherdによって考案され、「神経発達学の原理」に基づいて運動行動をトレーニングするのではなく、運動技能はある機能的順序にしたがって獲得されるというものである。
 それは①課題の分析、②欠けている要素の練習とFB、③課題の練習、④課題の日常生活への転移(自由度を拡げる)の4ステップの順において構成されている。

Ⅳ.課題指向型アプローチ(task oriented approach)
 課題指向型アプローチは問題解決を基盤とする介入理論といわれ、「個体」と「環境」および両者を有機的に結び付ける「課題」から構成されている。
 この三者の並列な相互関係によりアプローチ方法を決定していくという方法論である。
 つまり個体の障害度が仮に重度であっても、環境と課題の相互作用により、ある程度の運動療法は遂行可能と考えるのである。



 潮見先生は論文の中で、自らの考えを、こう示しておられます。


 “中枢神経疾患による運動障害の評価ではしばしば「質」が問題にされる。そのことが理学療法の効果を客観的に論じていくことを困難にしている。”


 脳卒中理学療法において、あまりにもその「質」を求めるばかり、
セラピストの独りよがりや自己満足になってしまっては、それは本末転倒というものです。
 理学療法士は治療行為によって、患者様からお金を頂いているわけですから、
そこには、「質」と同じくらい「量(=結果)」も対価として補償しなければならない、
と、個人的には日々感じています。
 

 最後に先生は論文の最後をこう、締めくくっておられます。
 

 「目の前の患者がよくなればそれでよいのではないか」という言葉は、確かに一面の真理とついている。

とはいえ、いつまでも単なる思い付きや場当たり的な治療を繰り返していたのでは、真の経験の蓄積とはならない。

それは治療者として怠慢とも言えるだろう。


【文責 坪井祥一】
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高次脳機能と理学療法
2011/08/18,19,20
●第10173回 理学療法士講習会●

【高次脳機能と理学療法】
(高倉 保幸 先生   埼玉医科大学保健医療学部
 杉本 諭 先生    帝京平成大学健康メディカル学部
 薮崎 純 先生    埼玉医科大学総合医療センター)


埼玉県川越市にて3日間にわたり開催された上記研修会に参加して参りました。

患者様の明日からの糧となるよう、心に残ったことを、書き綴っていこうと思います。




・「やっぱり高次脳機能障害があるからしょうがない。」
PTの業界ではこんな言い訳を耳にすることは、珍しくないという。

しかし、脳のネットワークが傷害される脳血管障害の患者様は、
なんらかの高次脳機能障害を有している可能性がある。

同程度の運動麻痺であるにも関わらず、歩ける患者様、一方で歩けない患者様、
といった動作能力に差がある患者様達をみて、
その差がもし“高次脳機能”にあるのだとしたら、その時理学療法士は、何を思うのか。

ここに高次脳機能を理学療法へ応用する必要性を感じることができる。


・高次脳機能をみる上で「知」・「情」・「意」という考え方がある。
「知」:認知機能(知覚・記憶情報の統合)を司り、頭頂葉・側頭葉・後頭葉からなる。
「情」:情動や感情を司り、辺縁系からなる。
「意」:遂行機能(意志の決定や行動の実行)を司り、前頭葉からなる。

基本的な太い流れとして、外内部からの情報が「知」覚され、「意」志を決定し、行動へ移すという流れがある。
それと同時に「情」動がその行為に対し、感情をプラスさせ、行動にコントラストを付けている。

この3つのセグメントは互いに促通しあったり、抑制しあったりして働いている。
理学療法においては、この三者間の関係性を評価し、弱い要素には強い要素で補ってやるなど、
「知・情・意」バランスを保つことが重要である。


・左半球を言語脳と言えるように、右半球は非言語脳ということができる。
左半球は言語を中心とした行為、論理的思考、計算などを司る。
一方で右半球は空間・身体認知および、非言語的なコミュニケーション、
つまり状況判断や言葉の裏の意味などを司る。


・脳画像(脳出血)の見方として重要なのは脳出血部位だけではない。
血腫や浮腫によりテント上の頭蓋内腔の圧が亢進すると、圧の逃げ道である下方の
テント切痕部(つまり脳幹のあるところ)の圧が高まり、テント切痕ヘルニアになる。

これは網様体賦活系、動眼神経、非麻痺側錐体路などが圧迫により障害される。
つまり意識障害、動眼神経症状、非麻痺側の運動神経症状が出現する。
動眼神経の症状が出ていると、“病巣自体は動眼神経から離れているのに”脳が腫れていることを示す。

また反対側半球の天井レベルの脳溝に注目して欲しい。
脳溝が見えなくなっている場合は、出血や浮腫によって反対側まで脳が押され、
反対側の脳まで障害されている可能性がある。
つまり健側下肢がうまく使えない、すなわち立てない、と言えるのである。
あるいは、脳全体が腫れて、脳全体の機能が落ちていることを示す。

このように、脳画像をみる場合は、脳出血部位のみを見ているのではなく、
ミッドラインシフト、反対側脳溝、テント下切痕=カーノハン圧痕、脳幹網様体、動眼神経、
等を確認しなくてはならない。


・脳の機能はネットワークにて働いているため、一つの病巣であっても、複数の症状が出現する可能性がある。
よっていろんな要素・側面からみて評価していく必要がある。

人間の知覚とはひとつの触覚で認識しているのではない。
複数の表在感覚や深部感覚、視覚や聴覚、そして記憶を統合して、総合判断している。
つまり頭頂葉・後頭葉・側頭葉の三つを明確に分ける必要はない。
三者を知覚脳と考えることもできる。

高次脳機能の基盤として最も重要なのは「覚醒」である。この覚醒が不十分であると、
すべての要素的機能(注意・記憶・言語・判断・認知)が重症化し出現する可能性がある。

覚醒の次に必要な高次脳機能として注意・覚度がある。
この覚度も覚醒同様、他の要素的機能を二次的に悪化させる可能性があるため、十分配慮する必要がある。


・高次脳機能障害を有する脳卒中患者を見た際、考えるポイントは中核症状と周辺症状の鑑別である。
そして、今出現している症状と、今後顕在化してくるであろう(今埋もれている)症状を捕らえることにある。

・高次脳機能障害に対する運動療法は、その難易度設定が、
最も重要な視点の一つであると言っても過言ではない。
高次脳機能障害を有する患者は、出現症状に対する認識がないことが多く、課題に対する適応能力に欠けている。
よって難易度が高すぎる場合、容易にエラーを生じてしまう。


・高次脳機能の運動療法を考える際、まずは身体能力に目を向け、
目指すべき活動レベルに向けて身体能力を優先させて向上させる。
誤解してはいけないのは、治療を優先させるということは、やらないということではない。

その治療全体におけるウェイト・比率のことであり、高次脳機能面に対しても、
少しでも運動療法を容易に遂行できるよう最大限の配慮は同時にしていく。
しかし、あまりにも高次脳機能障害にとらわれるあまり、
歩行・立位訓練を中心とした運動機能訓練がおろそかになることは、危険である。

歩行を経験していない、あるいはさせていない、そのアプローチが、
結果的に廃用症候群を招き、本来獲得できたであろう運動機能まで改善しない可能性を含んでいるからである。





高次脳機能における数々のセミナーでご活躍の高倉保幸先生、杉本諭先生。


炎天下、時に大雨、雷、地震とアクシデントもあった埼玉。

そんな中、講師の先生方は、優しく、時に諭すように教えて頂きました。

御三方の講師の先生方の高次脳機能、理学療法にかける熱い想いが伝わり、

その「語り」は、ひとつ向こうの山からの、“高い”視点であると感じました。


目指すべき理学療法士像であり、人としての理想です。





すべては患者様のために
坪井 祥一
言語獲得と理解の脳内メカニズム
言語獲得と理解の脳内メカニズム 乾 敏郎先生 2010
http://www.jstage.jst.go.jp/article/janip/60/1/59/_pdf/-char/ja/
の論文等を読み、感じたことをまとめていきます。

一個人の意見ですので、実際の内容とは異なる可能性がございます。
詳細は原著をご覧ください。



私たちPT、OTは運動療法を実施する際、必ずといっていいほど「コトバ」を用います。

 しかし脳卒中患者、ことに優位側大脳半球に損傷を受けた患者はなんらかの言語機能障害を有していると言われ、私たちが運動療法場面で指示している言葉掛けは、本当の意味で理解されていないように思われます。

 PT・OTが、患者に最も適した言語的教示ができないために、患者は求められている運動を表出することができていないのだとしたら、私たちは自分たちのスキルのなさを棚に上げ、「運動麻痺の重い患者」とレッテルを貼ってしまっているのかもしれません。

 
 そもそも、私たちが「聞いて理解し運動に変換する」といった一連の言語理解・表出過程は
どうなっているのか、まとめてみました。




Ⅰ.単語記憶の座
単語が記憶されている場所はそれぞれ違うと言われています。
動詞(動きに関連する単語)はBA6,44、
名詞(物の名前)は下側頭回領域、
助詞はBA47が担っていると考えられています。
それぞれの領域は、これらの単語を適切な音韻に変換する機能が備わっていると言われております。


Ⅱ.言語獲得
言語獲得に重要な課程として視覚情報と聴覚(言語)情報の統合にあると言われております。
言葉の未発達な幼児(聞き手)は、まず動作を見ることによって、その動作や役割を理解し、
それらの情報をBA6,44に一旦貯蔵します。
その「視覚的状況」が母親(話し手)によって言語的に表現され、
幼児(聞き手)に対して、次々と一次聴覚野から上・中側頭回を経て、
BA45,47へ時系列的に単語が入力されます。
これらはその後、先ほどの視覚情報が貯蔵されていたBA6,44にて統合されます。
このようにしてBA6,44にて母親(話し手)から次々聴覚入力される単語を、
視覚情報から得られた役割に正しく写像できるように学習が進んでいく仕組みとなっている訳です。
これらの学習が進むにつれ(言語の発達とも言える)、言語の格関係が正しく理解され、
BA6,44において各単語のθ役割(統語的意味役割)が付与されると考えられています。


Ⅲ.頭の中の言語
「赤い長方形は緑の長方形の左にある」
といった関係推論において、我々は脳内で空間的イメージを生成し、
かつ操作することができます。
つまり、たとえ目で見えていなくても、聞いたり、文を読んだりするだけで、
その関係性を脳内で言語的にイメージかつ操作できるのです。
これらは後部頭頂皮質や視覚野と運動前野(BA6)の活動において
生成・操作されていると言われています。
言語は実際に話さなくても、脳の中で働いているということを裏づけています。


Ⅳ.視聴覚ミラーニューロン
ミラーニューロンは自分自身の行為と照合することで、
他者の行為を理解していると言われ、行為の照合システムと考えられています。
言い換えれば、ミラーニューロンは他者の行為を、
自己の運動制御システムによって理解しているとも言えます。
このミラーニューロンには、
「視聴覚ミラーニューロン」たるものが存在すると言われています。
視聴覚ミラーニューロンとは音を聴く、あるいは動作を見る、
両者で応答するミラーニューロンであります。
臨床応用できる可能性が示唆されています。


Ⅴ.WHOシステム
ミラーニューロンシステムは自己と他者を区別しないため、
動作主(誰がやっているのか)は別のシステムで特定される必要があると考えられています。
これを規定しているのが後部頭頂葉に存在しているという、
WHOのシステムであります。
確かにBA5,7には自己身体定位や身体図式を司る領域もあり、
WHOシステムの座であることも、頷けます。


Ⅵ.言語のワーキングメモリ
Ⅲ.にて、後部頭頂葉領域と運動前野の活動にて内的空間イメージの
生成・操作ができることは先に述べました。
一方、BA40は音韻のワーキングメモリ課題、および手の運動のイメージ化の
際にも活動すると言われております。
つまりBaddeleyの言うワーキングメモリの音韻ループは
一次聴覚野→ウェルニッケ野→BA40→BA44の
領域にて行なわれていると考えられます。


Ⅶ.言語と運動療法
以上のように運動療法を行なう際にも、言語的教示の方法は
丁寧に行なわれる必要があるように思います。

まとめると、
○BA44,6には動作に関する単語が記憶され、
 同時に視覚と言語聴覚情報の統合もしているため、
 この領域の損傷にて「動作」そのものに関する言語的介入が
 困難になる可能性があります。
○また、運動前野と後部頭頂皮質との脳内システムにて
 空間的イメージの生成・操作をしているため、
 言語を用いて空間的関係を把握することが困難になる可能性があります。
○そして音韻のワーキングメモリとして(一次聴覚野→ウェルニッケ野→BA40→BA44
 のループ)音韻情報をある一定期間保存あるいは運動へ変換する機能を担うシステムがあり、
 このシステムの破綻によって、教示された言語情報を適切な期間覚えていられず、
 結果的に運動への変換を阻害する恐れがあります。


よって、以下の方法論が有効であると考えています。

 直接的な言語聴覚情報が使えないのであれば、他感覚を用い、
言語聴覚情報とは別の感覚情報-運動変換を用いる必要があります。
 すなわち視覚情報(BA17→BA7→BA6)を用い見真似させる、
あるいは動作音(視聴覚ミラーニューロン)を用い聞き真似させる、
体性感覚情報(BA3,1,2→BA5→BA6)を豊富に用いるといった基本的方法です。 
 当然のように言語聴覚情報とは別の経路を通って運動変換されるため、
運動遂行が可能となる可能性があります。
 
 また言語情報を用いるなら、メタファー(陰喩)を用いたり
エピソード記憶を想起させるような手法(海馬→BA44など)を用いることで、
より具体的な運動コントロールを想起させることができると考えられます。
 Baddeleyの言うワーキングメモリのモデルでは音韻ループのほかに
視覚・空間的スケッチパッドとエピソードバッファがあり、
言葉以外の別経路からもワーキングメモリを活性化させる狙いであることが分かります。
 
 さらにワーキングメモリを賦活させ学習効果を高める上では、
トップダウンの注意(BA9)を活性化させることが重要です。




言語的教示を運動療法に生かした方法論は、
我々が言語メカニズムや脳機能システムを理解し得ない状況では
難しく感じます。

しかし、運動療法場面において、
人間であるセラピストが、人に何かを伝える際の「言語」抜きには語れない以上、
言語的教示の手法が運動に与える影響を、
丁寧に行なってしかるべき、と感じました。

ひいてはそれが、
“この患者様には、どうしたら伝わるんだろう”
“どのように接し、関わっていったらよいのだろう”
という、セラピストとしての情熱・マインドに関わるのではいか、
と感じます。

医療職である我々は患者様に対する
いわゆる“声掛け”が、
大切であると教えられています。

言語的メカニズムを熟知し、真の意味で「患者様に“伝わる”声掛けをする」

それは、言語の脳内メカニズムを理解することと同義である、
とまで言うと、これは過大解釈でしょうか。

科学を根拠とするセラピスト(医療職)として、
患者様に真摯に向き合っていく、
その姿勢を忘れずに、治療に専念していきたいと考えています。






すべては患者様のために
坪井 祥一
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