岐阜脳卒中リハビリテーション研究会
―その拠点は岐阜。  脳卒中リハビリテーションを、“机上の空論”や“小手先のHowto”だけでなく、「機能解剖から臨床応用へ」と繋ぐべく、活動していきます。
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解説●第9回定期勉強会●
●岐阜脳卒中リハビリテーション研究会主催●

●第9回定期勉強会のお知らせ● ※終了いたしました


【テーマ】
高次脳機能と運動療法

【日時】
H23年8月30日(火)  
18:30~20:30(予定)

【内容】
重症脳卒中患者様を目の前にし、一体自分は何に難渋しているのかを、ふと考えます。

そんな時気付かされることは重症麻痺の程度のみならず、高頻度に併発している高次脳機能障害の存在です。

しかし表面だけを観察し、やれ「注意障害」だ、などと決まり決まった、
いわゆる“定義”や“概念”を目の前の患者様に当てはめても、それだけでは根本的治療には結び付きません。

果たして、今自分の目の前で起こっている摩訶不思議な症状、
つまり高次脳機能障害はどんな脳の仕組みで起こっているのか。

今回は前頭前野から頭頂連合野、高次視覚野さらには海馬まで、
高次脳機能障害のそのメカニズムと、運動療法介入について学びます。


【プレゼンテーター】
坪井 祥一 PT
(医療法人社団友愛会 岩砂病院)

【場所】
医療法人社団友愛会 岩砂病院 3Fリハビリテーション室(岐阜市長良福光161-1)

【受講費】
無料

【解説】
Ⅰ.高次脳機能と運動発現機序

運動発現をもう一度みてみると、高次脳機能との関わりをみることができます。

①まず意識・覚醒が脳幹上行性網様体賦活系から立ち上がり、脳幹・扁桃体・辺縁系・前頭前野眼窩部などにより“動くこと”への意欲・情動が発生されます。
そしてそれを受けた前頭前野は脳全体の覚度の水準(感度)を高めます。
②次に外界からの刺激(体性感覚・視空間感覚・言語聴覚情報等)がレセプターを通じて頭頂葉・後頭葉・側頭葉に入力されますが、
前頭前野背外側部・眼窩部が外部刺激の情報に注意を向け、時に干渉刺激に対しては抑制し、必要な情報であるかどうかを取捨選択します。
③そして、運動に必要な外部感覚刺激、内的欲求や、脳内に蓄積された過去の経験・記憶をもとに総合判断し、
前頭前野はその情報を運動前野・補足運動野に伝達します。
そこで運動の企画・計画が行なわれ、その後一次運動野にて、脊髄全角細胞に向かうインパルスを発射することになるわけです。
④この時、大脳基底核や小脳が運動の時間的・空間的な制御を行なっており、運動の量や質を精密にコントロールしています。

このように一つの運動に対し、脳全体が同時に関わっていることが分かります。

これを高次脳機能の側面から見てみると、どうなるのでしょうか。
(①’~④’は上記のメカニズム①~④に対応しています)
①’まず脳幹系・脳全体の問題としてを中心に意識障害や覚醒不良の問題、情動障害、注意の覚度・集中性の障害が生じる可能性があります。
②’頭頂葉・後頭葉・側頭葉の問題として外部から入力される情報自体がエラー、あるいは前頭前野による情報の統合障害が生じる可能性があります。
具体的には身体失認や半側空間無視、失行、構成障害、失語、視覚性失認などがあげれ、さらに注意の持続性や分配性の障害、抑制障害(保続)などが出現します。
③’そして間違った情報は間違った判断を下すため、前頭前野による判断能力が欠如し、遂行機能障害が生じる可能性があります。
また伝達先の補足運動野や運動前野の障害にて両手動作を円滑に使うことが出来なくなったり、運動の系列をうまく行なえなくなったりする可能性があります。
④’大脳基底核や小脳の障害にて、運動制御の障害や失調症などの運動麻痺+αの症状を呈するようになる可能性があります。

つまり一つの運動は脳全体が関わり合っている為、「今、目の前に見えているひとつの運動障害」も脳全体の障害の結果である、すなわち「すべての高次脳機能障害が同時に起こっている」可能性もあると、考えることも出来るのです。



Ⅱ.高次脳機能の階層性
このように難渋する症例は、多くの高次脳機能障害を併発しています。
臨床においても、一体それらは、どれが最も重要な問題点なのか、迷うことがあるように思います。
その時重要になってくる考え方の一つとして「優先順位を決める」ということです。
つまり高次脳機能の「階層性」を知ると、その仕組みを理解することができます。

高次脳機能の階層性は底面から覚醒・覚度→注意・状況判断・記憶・言語→要素的認知(身体・空間・物体)となっていると考えられます。
つまり、底面にある覚醒、注意や状況判断、記憶などが不良であると、その上位にある要素的認知能力は、より助長されて障害される可能性が高いということです。
高次脳機能を評価する場合には、この階層性が常に関わり合っていることを認識した上で、空間的要素ばかりを評価するのではなく、根本的な基盤となる覚醒や注意、状況判断などを評価し、優先順位を決めて治療にあたる必要があると考えられます。


Ⅲ.高次脳機能と運動療法
これらを踏まえた上で、具体的にはどのように運動療法を展開すればよいのか、一つの考えを示していきます。

1.身体能力を確保した上で高次脳機能をみる
重度の高次脳機能障害にとらわれるあまり、改善可能な身体機能が獲得できないことが多くあるように思われます。
これは身体的な廃用症候群を招き、その結果、精神面の廃用を招くのは明らかであるように思います。
患者様は次第に能動性を失い、更なる機能低下、高次脳機能障害の重篤化を引き起こしかねない状況に至ります。
よってまずは、積極的な身体能力の改善であり、それはつまり立位・歩行を中心とした抗重力姿勢保持訓練以外、他にはないと考えられます。
その後、身体能力が確保され、患者様自身の能動性や気づきが生まれてから、要素的な高次脳機能障害に目を向けても遅くはないと思われますし、
多くの場合、その時には当初より高次脳機能が改善傾向にある状況も、経験的な範疇で“ある”と感じています。


2.要素的問題点よりも基盤的問題点に目を向ける
高次脳機能の階層性を構成する各機能とその関係性を理解することが重要です。
高次脳機能の階層性は底面から覚醒・覚度→注意・状況判断・記憶・言語→要素的認知(身体・空間・物体)となっていると考えています。
すなわち、底面にある覚醒、注意や状況判断、記憶などが不良であると、その上位にある要素的認知能力は、本来の障害度よりも、さらに助長されて障害される可能性が高いということです。
これが、半側空間無視や、失行などの症状を目に付きやすくし、問題点を複雑化させている原因の一つです。
逆に、覚醒・注意・状況判断が出来ている患者様は空間的認知問題も、ADLの自然な流れの中で対処してしまっている可能性があることからも、この「階層性」理論の考え方は大変重要であるように思います。
まずは表面的な要素的問題よりも、基盤となる問題に着目し、根本的な問題点に対し、アプローチしていく治療プロセスが重要であると考えられます。


3.生きているモダリティを活用した運動療法の構築
◎意識障害・覚度の低下・重度の注意障害がある場合◎
・長下肢装具を用い、とにかく立位・歩行を中心とした抗重力訓練を行なうことを求めます。
・これは足底からの感覚入力(識別性・非識別性)
→小脳・網様体脊髄路の無意識的姿勢制御と意識の賦活化
→視床AN・DMを経由し大脳へ、意識・注意の活性化
→前頭前野・辺縁系の活性化により運動学習される、
このメカニズムからも大変重要であると考えられます。
・なによりも「身体の廃用症候群=脳全体の不活性」が改善されなければ、
高次脳機能障害の改善はありえないと考えられます。


◎右片麻痺の場合◎
欠点(左脳の固有機能)として、
・言語指示を理解し、運動変換するのが苦手(失語)
・言語障害がなくても、言語を介する運動学習が苦手(失行)
・言語障害がなくても、論理的思考能力が低下する
・言語障害がなくても、計算が苦手
と臨床的に感じる場合が多いように思われます。

逆に利点(右脳の固有機能)として、
・状況判断能力に優れている(非言語コミュニケーション)
・空間認識能力・身体図式が保たれていることが多い
・自己認識・病識が保たれていることが多い

つまり利点を生かした運動療法の方略として、
・言語的要素以外のモダリティを入力するよう心がける
・具体的には「見せて真似させる」
「文字に書いて読ませる」
「抑揚・表情や視線、指差し、ジェスチャーで示す」
「ハンドリングを有効に使い体感させる」
が望ましいと考えています。


◎左片麻痺の場合◎
欠点(右脳の固有機能)として、
・空間認識能力・身体図式が大きく崩れていることが多い
・自己認識・病識が崩れていることが多い
・表面的な言語理解は保たれるが裏に含まれる心理状況を読めない
・言語に執着し、物事を非常に細かく捕らえすぎる傾向にある
・理屈っぽくなり、表面的な問題に固執しやすい
と臨床的に感じる場合が多いように思われます。

逆に利点(左脳の固有機能)として、
・言語そのものは保たれ、文章的事項は分かっている
・要素的(言語)記憶が保たれていることが多い
・律儀な性格になりやすい傾向にある
と臨床的に感じる場合が多いように思われます。

つまり利点を生かした運動療法の方略として、
・要素的記憶と言語機能が比較的保たれ、律儀な性格にある傾向を逆手に取り、
患者とセラピスト間でのルールを定め、習慣的な能動性を引き出す
・空間・自己認識能力に劣り、全般的な注意障害を伴うことが多い傾向にあるため、
症例にとって興味のある(情動)、引き付ける視覚的注意要素を模索し、
動作をパターン化させる
ことが望ましいと考えています。



【文責 坪井祥一】
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高次脳機能と理学療法
2011/08/18,19,20
●第10173回 理学療法士講習会●

【高次脳機能と理学療法】
(高倉 保幸 先生   埼玉医科大学保健医療学部
 杉本 諭 先生    帝京平成大学健康メディカル学部
 薮崎 純 先生    埼玉医科大学総合医療センター)


埼玉県川越市にて3日間にわたり開催された上記研修会に参加して参りました。

患者様の明日からの糧となるよう、心に残ったことを、書き綴っていこうと思います。




・「やっぱり高次脳機能障害があるからしょうがない。」
PTの業界ではこんな言い訳を耳にすることは、珍しくないという。

しかし、脳のネットワークが傷害される脳血管障害の患者様は、
なんらかの高次脳機能障害を有している可能性がある。

同程度の運動麻痺であるにも関わらず、歩ける患者様、一方で歩けない患者様、
といった動作能力に差がある患者様達をみて、
その差がもし“高次脳機能”にあるのだとしたら、その時理学療法士は、何を思うのか。

ここに高次脳機能を理学療法へ応用する必要性を感じることができる。


・高次脳機能をみる上で「知」・「情」・「意」という考え方がある。
「知」:認知機能(知覚・記憶情報の統合)を司り、頭頂葉・側頭葉・後頭葉からなる。
「情」:情動や感情を司り、辺縁系からなる。
「意」:遂行機能(意志の決定や行動の実行)を司り、前頭葉からなる。

基本的な太い流れとして、外内部からの情報が「知」覚され、「意」志を決定し、行動へ移すという流れがある。
それと同時に「情」動がその行為に対し、感情をプラスさせ、行動にコントラストを付けている。

この3つのセグメントは互いに促通しあったり、抑制しあったりして働いている。
理学療法においては、この三者間の関係性を評価し、弱い要素には強い要素で補ってやるなど、
「知・情・意」バランスを保つことが重要である。


・左半球を言語脳と言えるように、右半球は非言語脳ということができる。
左半球は言語を中心とした行為、論理的思考、計算などを司る。
一方で右半球は空間・身体認知および、非言語的なコミュニケーション、
つまり状況判断や言葉の裏の意味などを司る。


・脳画像(脳出血)の見方として重要なのは脳出血部位だけではない。
血腫や浮腫によりテント上の頭蓋内腔の圧が亢進すると、圧の逃げ道である下方の
テント切痕部(つまり脳幹のあるところ)の圧が高まり、テント切痕ヘルニアになる。

これは網様体賦活系、動眼神経、非麻痺側錐体路などが圧迫により障害される。
つまり意識障害、動眼神経症状、非麻痺側の運動神経症状が出現する。
動眼神経の症状が出ていると、“病巣自体は動眼神経から離れているのに”脳が腫れていることを示す。

また反対側半球の天井レベルの脳溝に注目して欲しい。
脳溝が見えなくなっている場合は、出血や浮腫によって反対側まで脳が押され、
反対側の脳まで障害されている可能性がある。
つまり健側下肢がうまく使えない、すなわち立てない、と言えるのである。
あるいは、脳全体が腫れて、脳全体の機能が落ちていることを示す。

このように、脳画像をみる場合は、脳出血部位のみを見ているのではなく、
ミッドラインシフト、反対側脳溝、テント下切痕=カーノハン圧痕、脳幹網様体、動眼神経、
等を確認しなくてはならない。


・脳の機能はネットワークにて働いているため、一つの病巣であっても、複数の症状が出現する可能性がある。
よっていろんな要素・側面からみて評価していく必要がある。

人間の知覚とはひとつの触覚で認識しているのではない。
複数の表在感覚や深部感覚、視覚や聴覚、そして記憶を統合して、総合判断している。
つまり頭頂葉・後頭葉・側頭葉の三つを明確に分ける必要はない。
三者を知覚脳と考えることもできる。

高次脳機能の基盤として最も重要なのは「覚醒」である。この覚醒が不十分であると、
すべての要素的機能(注意・記憶・言語・判断・認知)が重症化し出現する可能性がある。

覚醒の次に必要な高次脳機能として注意・覚度がある。
この覚度も覚醒同様、他の要素的機能を二次的に悪化させる可能性があるため、十分配慮する必要がある。


・高次脳機能障害を有する脳卒中患者を見た際、考えるポイントは中核症状と周辺症状の鑑別である。
そして、今出現している症状と、今後顕在化してくるであろう(今埋もれている)症状を捕らえることにある。

・高次脳機能障害に対する運動療法は、その難易度設定が、
最も重要な視点の一つであると言っても過言ではない。
高次脳機能障害を有する患者は、出現症状に対する認識がないことが多く、課題に対する適応能力に欠けている。
よって難易度が高すぎる場合、容易にエラーを生じてしまう。


・高次脳機能の運動療法を考える際、まずは身体能力に目を向け、
目指すべき活動レベルに向けて身体能力を優先させて向上させる。
誤解してはいけないのは、治療を優先させるということは、やらないということではない。

その治療全体におけるウェイト・比率のことであり、高次脳機能面に対しても、
少しでも運動療法を容易に遂行できるよう最大限の配慮は同時にしていく。
しかし、あまりにも高次脳機能障害にとらわれるあまり、
歩行・立位訓練を中心とした運動機能訓練がおろそかになることは、危険である。

歩行を経験していない、あるいはさせていない、そのアプローチが、
結果的に廃用症候群を招き、本来獲得できたであろう運動機能まで改善しない可能性を含んでいるからである。





高次脳機能における数々のセミナーでご活躍の高倉保幸先生、杉本諭先生。


炎天下、時に大雨、雷、地震とアクシデントもあった埼玉。

そんな中、講師の先生方は、優しく、時に諭すように教えて頂きました。

御三方の講師の先生方の高次脳機能、理学療法にかける熱い想いが伝わり、

その「語り」は、ひとつ向こうの山からの、“高い”視点であると感じました。


目指すべき理学療法士像であり、人としての理想です。





すべては患者様のために
坪井 祥一
視床の機能解剖
機能解剖で斬る神経系疾患 中野隆編著 メディカルプレス 2011 P190~

の論文等を読み、感じたことをまとめていきます。

一個人の意見ですので、実際の内容とは異なる可能性がございます。
詳細は原著をご覧ください。




視床は「大脳皮質」と「下位中枢」の中間に位置する脳器官である。
視床はこれら双方向性の連絡により大脳皮質の機能に深く関与している。

そのためこの部位の障害では多彩な中枢神経症状が生じるのである。



視床を機能面からみて、4つに分類する。
1)後部、2)腹外側部、3)前部、4)背内側部である。


1)後部
VPL核は頚部以下の体知覚、すなわち表在感覚・非識別型触覚および意識型深部感覚・識別型触覚の中継核であり、脊髄視床路からの入力を受ける。
VPM核は顔面および頭部からの体知覚の中継核であり三叉神経視床路から入力を受ける。
これらVPL核・VPM核からは、area312へ向けて視床皮質路が投射される。
外側膝状体は視索からの入力を受けarea17へ視放線を投射する。
内側膝状体は外側毛帯からの入力を受けarea41へ聴放線を投射する。
主に視床膝状体動脈(PCLの分枝)が支配する。


2)腹外側部
VL核は大脳基底核や小脳と共同して、運動制御に重要な役割を果たしている。
すなわち大脳-基底核ループあるいは、大脳-小脳ループである。
主に視床膝状体動脈、視床穿通動脈(PCL)、視床灰白隆起動脈(PCL)が支配する。


3)前部
AN核は大脳辺縁系に関与し、Papezの回路(海馬→乳頭体→視床AN→帯状回→海馬傍回→海馬)を形成することにより記銘機能を司る。
視床灰白隆起動脈が支配する。


4)背内側部
DM核は前頭前野に関与し、Yakovlevの回路(扁桃体→視床DM→帯状回→扁桃体)を形成することにより情動・思考・意欲・感情などを司る。また脳幹網様体からの自律神経情報も入力され、意識・覚醒などにも関わる。
前脈絡叢動脈(内頚動脈の分枝)・後脈絡叢動脈(PCL)が支配する。



以上のように、視床においても、どの部位が障害されるかによって、その出現する内容は異なることが分かる。
著名な症候としては、VPL核・VPM核障害による感覚障害、感覚性運動失調、
またVL核障害による大脳基底核を介した運動制御の障害、および小脳を介した小脳性運動失調やCCAS、
そしてAN核・DM核障害による記憶・情動・認知・覚醒障害が出現する可能性がある。


さらに重要な事は、視床が内包と隣接していることにある。
内包は前脚(皮質橋小脳路、視床放線)・膝(皮質延髄路)・後脚(皮質脊髄路・視床放線・皮質橋小脳路・視放線・聴放線)からなり、運動神経を中心とした重要な神経路を構成している。
例えば上述した、いくつかの穿通動脈は脳血管障害の好発部位であり、視床の血管性病変により、周囲に生じた血腫や浮腫による圧迫や病巣の進展によって、二次的な内包障害をもたらす可能性がある。


ここに視床病変の複雑さが存在している。
例えば視床穿通動脈の障害による、VL核と内包後脚の同時障害にて反対側の片麻痺と運動失調が出現、
いわゆるataxic hemiparesisという症候となりうる。
しかし多くの場合、運動失調は目で確認できるほどには至らない可能性がある。
それは、運動麻痺が重度化しているからである。




脳血管障害の評価はその対象が“脳”であるがゆえに、出現した臨床像に対する解釈は難解を示すことが多く、実際には、理学療法士が目に見える「動作」や「姿勢」のレベルで、その解釈を都合付けていることが少なくないように思われます。

しかし脳には個人差があることを前置きした上で、視床のVPL核は誰においてもVPL核であるし、視床AN核はどの脳においても、必ず同じ場所にあるはずであることは、前述した解剖学的背景から間違いはないと考えられます。

つまりこの考え方によって、視床脳血管病変における病態解釈は容易となりうるし、その理学療法はより根拠に基づいた評価・治療となると考えられます。




すべては患者様のために
坪井 祥一
神経系理学療法の変遷
科学的根拠に基づく理学療法 潮見泰蔵監訳 エルゼビアジャパン 2008

の論文等を読み、感じたことをまとめていきます。

一個人の意見ですので、実際の内容とは異なる可能性がございます。
詳細は原著をご覧ください。




 理学療法実践の歴史や変遷を理解することによって、神経系理学療法の歴史上の変化をみることができる。


 1900~1950年頃は筋力改善を中心とした、矯正運動や筋再教育(いわゆる筋力トレーニング)が主流であった。


 1950年代になると神経生理学・神経発達学の台頭によりファシリテーション手技が生まれ、神経理学療法の歴史に大きな影響を与えた。
これまでの理学療法とは異なり、その焦点は筋から“非筋要素”へと変化したのである。
すなわちBobath,NDT,Rood,ブルンストロームなどであり麻痺や筋力低下という陰性兆候よりも痙性や筋緊張といった陽性兆候に、その治療コンセプトは重きを置いた。


 1990~2000年になると、運動制御のメカニズム、筋生理学、バイオメカニクス、スキルの獲得、運動科学、心理学といった学問体系の発展により、神経理学療法分野にもそのよさが取り入れられた。
具体的には運動学習理論や課題指向的アプローチがそうである。


 近年2000年以降では、PET,fMRI,fNIRSといった脳イメージング機器の発明や脳科学の発展により、脳の可塑性に着目した治療が注目されている。
CI療法や認知神経リハビリテーションなどがそうである。
巷においても“脳トレ”と言われる様に、もはや「脳を鍛える」という考えは市民権を得ているのではないか。
またBMI(Brain Machine Interface)に代表されるようないわゆる、ロボット・電子機器を併用したリハビリテーションも進化を遂げており、現在の神経理学療法界はまさにパラダイムシフトを迎えている。




このようにその時代、その時代ごとの科学的背景に応じて、治療形態は大きく様変わりしてきました。

ここに、現代の神経系理学療法の1つの問題点が浮かび上がります。
世代ごとに違う理学療法士のそれまでに学んできた学習背景・立場の違いによって、治療的思考に違いが生まれるのです。


例えば、ある一つの症候を同時に複数の理学療法士で観察したとしても、ある理学療法士Aは筋力の問題であると捉え、また理学療法士Bは筋緊張の問題であると捉えます。
あるいは理学療法士Cは脳実質の運動イメージの問題と捉えるかも知れません。
問題点の抽出が人によって違ってくることがあります。



このように神経系理学療法の臨床思考の過程において、各理学療法士間の考え方の幅は、ある程度、“許されて”いるように思われます。
もちろん実際の臨床の中では、一人の患者様に対し、様々な可能性に応じた治療が行なわれることには、全くの異論はありません。
しかし、同一に観察された現象に対する立場の異なった根本的な仮説が、
異なった仮説・検証への進展や、異なった治療プログラムをもたらすことは、科学に基づく理学療法としても、治療対象者である患者様にとっても、危険であるように感じます。



ここまで、神経系理学療法における歴史とその変遷の一部を垣間見ました。

そこには理学療法の発展と、今後の課題を示しているように思えました。


「ゆえに、
重要なことはこれらの機能障害の外見上の徴候の根本的な原因に関する新しい知識に遅れないことだ,
このことによって治療が、能力障害に対して最も適切に寄与することが確実になる」
(Julie Bernhardt and Keith Hill)









すべては患者様のために
坪井 祥一
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